樹形は光資源の獲得, 成長・繁殖器官の配置, 水分・栄養塩の輸送など樹木にとって重要な生理・生態的機能をもつと同時に, 空間獲得, 耐陰性, 繁殖量など樹木の生活史戦略や群落内における個体の生存, 適応度を反映している。樹形研究は生理学や形態学などの下位スケールの研究と森林群落の動態や生態系の生産性などの上位スケールの研究を結ぶ役割を果たす。樹形は光合成産物や水分・栄養塩, 植物ホルモンの輸送経路として個体内におけるモジュール (樹木の基本構成単位) の階層性を決定する。個葉や当年枝レベルで測定された生理パラメータを個体レベルに統合するには樹形の解析が不可欠である。一方, 群落を構成する個々の樹木の挙動から群落動態を明らかにするには, 個体の「時空間的優占度」やそれを規定する「潜在力」などの概念を樹形の解析を通して定量化する必要がある。今後は, 葉や当年枝などの形態的モジュール単位に加えて, 生理的な相互作用や樹冠の発達を担うシュート集団などの機能的モジュール単位の解明と動態解析が必要となる。