日本の代表的な造林樹種であるスギ林の養分循環に及ぼす森林管理や今後の環境変動の影響を予測する上で, 土壌の窒素無機化特性に関する知見は重要である。本総説は近年のスギ林土壌の窒素無機化に関する研究を解説するとともに, 今後の研究展開について検討した。まず, 窒素無機化の評価法と問題点について論述し, これまで得られた研究成果をもとに窒素無機化に及ぼす要因を検討した。次に既存文献および著者らのデータから室内培養によるスギ林の窒素無機化速度と無機化率および硝化率の平均値を求めた。4週間の室内培養による無機化速度は93.7mg kg-1, 無機化率は1.3%, 硝化率は70%であった。今後の研究として, トレーサーを利用した現地での窒素動態の追跡や樹木根系による有機態窒素の直接吸収と細根の栄養生理との相互関係に関する研究の進展が望まれる。さらに, 温暖化や窒素飽和など環境変動や施業による土壌窒素動態の解明のため, 物質循環に関する総合的な研究の必要性を提起した。