大規模かつ急速な針葉樹人工林化は, 地域固有の生物多様性に大きな影響を与えてきたと考えられる。一方, 複層林施業は, 地域の生物多様性の保全につながることが期待される。本研究では大規模林業地域の愛媛県久万高原町とこの地域本来の植生が残存する近隣老齢二次林のカミキリムシ相の違い, ならびに森林タイプ (針葉樹人工単層林, 針葉樹人工複層林, 天然更新二次林), 林齢, 植物種数, 倒木量とカミキリムシ相の関係を調査した。久万高原町では, 成熟した森林環境に依存するカミキリムシ類が衰退していた。カミキリムシ相の対応分析の結果, 森林タイプ別にクラスターは形成されていなかったが, 老齢二次林が最小値を示した対応分析の第1軸と植物種数の間に有意な負の相関関係が認められた。これらのことから, カミキリムシ相は複層林施業によってただちに回復するわけではないが, 森林タイプにかかわらず, 下層植生を適切に管理して植物種数を増やすことによって本来のカミキリムシ相を保全することができると考えられる。