岩手県の黒沢尻試験地の落葉低木型林床ブナ林における皆伐母樹保残法による天然更新施業試験地の更新実態について解析した。1948年伐採 (保残母樹密度6本/ha) で刈払いを実施した林分は, 伐採後54年の時点でブナ純林状の再生林となっていた。1969年伐採林分 (保残母樹密度13本/ha) のうち, 刈払いを省略した林分では伐採後33年の時点でウワミズザクラ, ホオノキなどの再生林となっており, ブナ更新樹はわずかしかみられなかった。刈払いを実施した林分では, 多数のブナ更新樹がみられL字型の直径階分布を示したが, 保残母樹の樹冠下およびその周辺に限られ, 林冠層に達しているものは少なく, ブナ優占の更新林分が成立している状態ではなかった。以上の結果から, 刈払いがブナ稚樹の定着, 生存に大きな効果をもつことが示されたものの, 刈払いが実施され多くのブナ稚樹が定着した林分がその後必ずしもブナ再生林へと推移しているとは限らないことが判明した。刈払いの実施にもかかわらずブナの更新状況にちがいを生じさせた要因として, 施業とブナ結実とのタイミングに加えて, 施業前のブナ稚樹生育状態も関係している可能性がある。