高齢化したスギ・ヒノキ人工林小流域における斜面位置別土壌中の水溶性イオンの動態を明らかにするために,野外培養による土壌中のN無機化速度(NH4-N+NO3-N)と水溶性イオン生成速度,樹体の養分吸収量などを調査した。脚部および中腹部のスギ林は,尾根部のヒノキ林に比べて土壌中のNO3-N生成速度が大きく,水溶性NO3-濃度および水溶性Ca2+濃度が高かった。NO3-N生成に伴い水溶性NO3-はほぼ同じ割合で増加したが,水溶性SO42-は培養後に減少した。生成した水溶性陽イオンに占める水溶性Ca2+の割合は,脚部および中腹部で8割程度,尾根部で5割程度であった。尾根部では林木への養分供給量と樹体の養分吸収量が同程度であった。一方,脚部および中腹部では,養分供給量が吸収量より多かった。脚部のような渓流沿いの場所で植栽木の高齢化により養分吸収量が低下すると,水溶性NO3-と随伴陽イオンが流亡し渓流水質に大きな影響を及ぼす可能性が指摘された。