皆伐・再造林施業が渓流水質に与える影響を明らかにするため,奈良県十津川村の集水域単位で林齢が異なるスギ人工林の中の33集水域で渓流水質を通年観測した。渓流水のNO3- 濃度は1年生集水域で最も高く,9年生までに低下し13年生で87年生集水域の値に近づいた。各集水域の平均NO3- 濃度について林齢・面積・標高・勾配・斜面方位を要因とした重回帰分析の結果,林齢が濃度のおもな規定要因であった。また,林齢に対するNO3- 濃度パターンは先行降雨の多寡に依存していなかった。皆伐後のNO3- 濃度とスギの成長パターンから,植生回復が濃度低下に寄与することが示唆され,欧米の研究例と一致した。しかし,欧米に比べNO3- 濃度が皆伐前までの値に回復する期間が長く,下刈りによる下層植生回復の遅延や土壌水から渓流水までの浸透過程がその原因と考えられた。また,NO3- 濃度とともにカチオン濃度の上昇がみられたがAl濃度やpHは変化しなかった。以上から,皆伐後の硝化速度の上昇に起因する土壌酸性化は渓流に至るまでに緩衝されるが,窒素やカチオンの流出は皆伐・植栽後9年程度続くことが示された。