絶滅危惧種ユビソヤナギを保全する方法を検討するため,湯檜曽川の水辺域に25個の調査プロットを設置し,林分構造と地形ユニット,林齢を調べた。湯檜曽川の水辺林は,オノエヤナギ,オオバヤナギ,ユビソヤナギ,サワグルミ,ブナが優占する五つの森林構造タイプに類型化された。オノエヤナギタイプは低位氾濫原にのみ分布し,ユビソヤナギタイプとオオバヤナギタイプは低位氾濫原と高位氾濫原に,サワグルミタイプは低位氾濫原と高位氾濫原および谷壁斜面に,ブナタイプは段丘と谷壁斜面に分布していた。また,ヤナギ科樹種が優占するタイプの林齢は45年以下で,その中でもオノエヤナギタイプは27年以下に限られていた。サワグルミタイプとブナタイプは88年以上であった。ユビソヤナギタイプは,河川撹乱による裸地に形成され,サワグルミ林に遷移するまでの間,存立する林分であると考えられた。湯檜曽川では,広い谷底に特有の多様な撹乱体制と立地環境の影響で,これら主要な5タイプの林分がモザイク構造を作っていることが明らかになった。ユビソヤナギ個体群を水辺林の多様性とともに保全するためには,現在の撹乱体制とそれに対応した立地環境を維持することが必要不可欠である。