九州の冷温帯落葉広葉樹林の渓畔域において,異なる土性(砂質土壌および礫質土壌)に生育する渓畔種サワグルミの当年生実生の根系の形態を調査し,同じ環境に生育するアカシデおよびイヌシデと比較することにより,1)渓畔林構成種は土壌基質に順応して根系を展開しているか,2)順応の結果は生残率に影響を及ぼすか,を検討した。樹種間および土性間で根系を比較した結果,礫質土壌におけるサワグルミの最長側根長,最長根長(根系基部から根の先端までの最長距離)および最長側根長/主根長は最も高い値を示した。このことから,サワグルミは礫質土壌において側根を最も長く伸ばせるという特徴があり,アカシデおよびイヌシデに比べて礫質土壌に順応する能力が高いと考えられた。また,サワグルミの生残率は礫質土壌において高かったことから,サワグルミの礫質土壌に対する根系の順応が渓畔域での当年生実生の定着・生残に影響していることが示唆され,根系の順応はサワグルミの重要な特徴のひとつであろうと推察された。