神奈川県東丹沢の堂平地区では, ニホンジカ( Cervus nippon )の採食の影響でブナ林の林床植生が衰退し, 土壌侵食が山腹斜面で広範囲に進行している。林床植生被度の異なる3個の試験区画を設置し, 2004年7月から2006年12月まで土壌侵食量等を現地にて測定した。その結果, 林床植生被度が小さいほどリター堆積量は少なく, 土壌侵食量は増大し, 林床植生被覆面積率約1%の試験区画(被度小)の土壌侵食深は年間数mmにも達した。調査対象地ではブナ林のリターが林床に供給・堆積するが, リターは地表流や風で斜面下方に移動するとともに, 分解で減少し堆積量は季節変化する。そのため被度小では, リター堆積量の少ない夏期(7∼9月)は堆積量の多い春期(4∼6月)・秋期(10∼11月)に比べ雨水の表土層への浸透率が低下して地表流の流出率が増加し, 降雨量が同一でも土壌侵食量は増大した。夏期は降雨量が多く, 土壌侵食の大半は夏期に生じることが明らかとなった。