昆虫病原性糸状菌 Beauveria bassiana を材から脱出直後のマツノマダラカミキリ成虫に感染させ, 野外のケージ内でクロマツ苗木とともに飼育し, 成虫の生存期間, 後食活動, および苗木の枯死率を調査し, B. bassiana による成虫感染のマツ枯損防止効果を推定した。感染により, 成虫の1週間以内の死亡率が21%から55%に, 2週間以内の死亡率が43%から97%に増加し, 平均生存期間は36.5日から7.5日に短縮された。実験開始後1週間以内に後食を停止した成虫の割合は38%から92%に増加し, 実験を通して後食された供試木の割合 (後食率) は81%から61%へ, 供試成虫の後食面積は1/10以下に減少した。その結果, 供試木の枯死率は77%から51%へ低下した。ところが, 実験開始後1週目の供試木の後食率や枯死率の著しい低下はみられなかった。以上のことから, B. bassiana による成虫感染は, 成虫の生存期間や後食期間の短縮と後食活動の抑制を通してマツの枯死をある程度抑制しうるが, 感染の効果はすぐには現れないので, マツノマダラカミキリ成虫からのマツノザイセンチュウの離脱が成虫の脱出後早くから生じる地域では, 効果は大きくないと考えられた。