ソメイヨシノのような園芸品種の大規模植栽はサクラ野生種の遺伝子撹乱を引き起こす可能性がある。本研究ではソメイヨシノからサクラ野生種への遺伝子流動を調べるため, 自家不和合性 ( S ) 遺伝子の高い多型性に注目して, ソメイヨシノ由来の S 対立遺伝子を検出する遺伝マーカーを開発した。サクラ野生種個体から採取した種子を分析したところ, サクラ野生種個体の中にソメイヨシノと同じ S 対立遺伝子をもつ個体が存在していたため, 開発した遺伝マーカーだけではそれらの個体とソメイヨシノに由来する S 対立遺伝子を区別できなかった。しかしながら, SSR分析を組み合わせることでソメイヨシノ由来の S 対立遺伝子を判別することは可能であり, 開発した遺伝マーカーとSSRマーカーを併用することはソメイヨシノ由来のゲノムの拡散パターンを調べる上で有効な手段であると考えられる。