青森県八甲田ブナ施業指標林において, 伐採前後における種子落下量, 稚樹の発生消失・成長データならびに伐採後約30年時の更新状況調査から, 天然更新施業におけるブナの更新過程を考察した。1976年に顕著なブナの豊作があり, その前年に皆伐が行われた第1区では伐採時のブナ稚樹本数が約3万本/haであったが, その翌年, 2年後に皆伐母樹保残が行われた第2区, 第4区ではそれぞれ約43万本/ha, 26万本/haであった。1986年に生存していた更新木のうち伐採前に発生したものの割合はそれぞれ98, 97, 78%であり, 第1区以外は大部分が1976年豊作由来であった。伐採から約30年後には, 第1区のブナ密度は標準的なブナ二次林と比較すると疎であったが, 第2区と第4区は密であった。地床処理の有無, 種類による更新木本数のちがいは, 30年間を通してほとんど検出されなかった。以上のことから, この試験地では保残木が母樹としての役割を果たさず, むしろ前更更新により更新林分が成立したことが判明した。