日本の森林生態系における物質循環と森林施業の関わりについて, 既往研究をレビューした。これまで, 森林伐採が物質循環や水質形成に及ぼす影響については, 伐採後に樹木の養分吸収が低下することによって, 河川へ硝酸態窒素が溶脱することが示されてきた。一方, 北海道北部における伐採後の林床植生による窒素養分吸収や, 関東北部での火山灰土壌における硝酸吸着, 流域水文過程に伴う河川水質変化など, 日本における特色あるプロセスについて報告されている。また, 急傾斜地における森林施業の結果として斜面崩壊が生じることで, 流域生態系の水文・水質形成過程が影響されることも示唆された。さらに, 河畔緩衝域での窒素除去, 河川流路内での栄養塩スパイラル, 里山における森林管理と物質循環変化など, 生態系境界域での研究が重要であることが指摘されている。今後は, 地域ごとの特性を考慮に入るとともに, 施業影響下での物質循環モデルのパラメタリゼーションなどをさらに推し進めることが重要である。