近年, さまざまな分子マーカーを用いて, 系統地理を検証する研究が種々の生物で行われてきた。キクイムシ類では, 樹皮下穿孔性キクイムシを中心に系統地理解析が進んでいるが, 最近, 養菌性キクイムシでも着手されるようになった。本総説では, 樹皮下穿孔性キクイムシ3属9種, 養菌性キクイムシ1属2種の研究例を紹介する。樹皮下穿孔性キクイムシでは, キクイムシの分布形成と寄主植物の分布変遷との相関について検証し, 養菌性キクイムシでは, 地史的要因が分布形成に及ぼす影響について考察した。最後に, キクイムシの遺伝的構造を総合的に比較し, その分布を決定する要因について議論するとともに, 今後期待される研究の方向性を提示した。