急傾斜地の照葉樹林におけるネズミによる堅果の散布に与える地形の影響を明らかにするため, 林内の頂部斜面および下部斜面に磁石を挿入した堅果を設置し, 金属探知機を用いて堅果の散布先を調査した。多くの堅果は, 設置場所より斜面下方に散布された。また, 頂部斜面では設置場所から半径14 m程度の範囲に分散して散布され, 下部斜面では4 m程度の範囲に集中して散布されていた。林内の階層構造や地表の状態は, 下部斜面で設置場所より斜面下方に岩の露出や谷部が多く分布していた。これらの結果から, 急傾斜地でのネズミによる堅果散布の大多数は, 傾斜によって斜面上方への散布を制限され, さらに下部斜面では谷によって斜面下方および対岸への散布を制限されると考えられた。しかしながら, 少数の堅果は, 下部斜面から斜面上方へ散布されており, 単年での散布確率は低いが, 下部斜面に生育する樹木の堅果散布者としてのネズミの重要性が示唆された。