雄花序落下数によるブナの結実予測手法を北陸地方で検討した。隔離集団に属する5林分のブナと連続分布集団に属する9林分のブナについて開花結実の年変動を7∼13年間調べた。雄花序落下数から雌花開花数を5∼6月に推定できることがわかった。不稔堅果となる割合 (不稔率) には当年の雌花開花数が, 虫害堅果となる割合には当年と前年の雌花開花数が関係しており, 北海道で開発された手法と同様に健全堅果となる割合 (結実率) を推定できた。しかし, 豊作となるのに必要な雌花開花数は北海道や東北地方での数と異なっていた。隔離集団では連続分布集団より不稔率が高く結実率は低くなり, 集団の立木本数の少なさによる花粉制限や遺伝的多様性の低さが関係している可能性が考えられた。これらより, 結実率の推定式を地域や分布の連続性の有無ごとに作成することの重要性が示された。雄花序落下数から雌花開花数を推定し, さらに結実率推定式から予測した作柄は, 実測した作柄とよく一致し, 雄花序落下数による結実予測手法の有効性が示された。この手法は, 当年の初夏に結実予測でき, 秋のクマの出没予測や堅果採取の可否の検討などに有効だろう。