富山県, 石川県および福井県における, 2005年から2011年までの7年間の豊凶モニタリング調査の結果を用いて, 北陸地域におけるブナ科樹木の豊凶とツキノワグマの人里への出没との関係について検討した。北陸3県ではいずれも, 高標高域に分布するブナとミズナラの県全体の結実状況に大きな年変動があり, とくに北陸地域でクマ大量出没が発生した2006年と2010年には, 極端な結実不良となっていた。低標高域に分布するコナラでは県全体の結実状況の年変動は小さく, 極端な結実不良の年はなかった。このことから北陸地域では, ブナとミズナラの結実不良が広域的に同調して発生したことに起因する山地の餌不足が, クマ大量出没の引き金になっていたと推察された。クマ大量出没に影響するこれら「鍵植物」の豊凶は, 県をまたがる広い地域で同調していた。このことから現在各地で実施されている豊凶モニタリング調査を, 相互に比較可能な方法で連携して実施すれば, 効果的な豊凶把握やクマ大量出没の予測精度の向上に役立つと考えられる。