多面的機能が注目される社叢林の保護と管理を行うには, その成立要因を理解する必要がある。本研究では長野県戸隠神社奥社参道のスギ並木を対象に林分構造と遺伝的多様性・特性を調べた。二山型を示す直径階分布から多くの個体は限られた時期の植林によって成立しており, 現在の樹高成長量は低く今後は補植が必要になると考えられた。核マイクロサテライトマーカー8遺伝子座での遺伝解析から多くのクローンが検出され, 挿し木による植林の可能性が示された。また奥社参道における遺伝的多様性の指数は天然林と同程度だが, 遺伝距離に基づく主座標分析では天然林とは異なる特異な遺伝的特性を示した。さらに周囲の社叢林のスギ, 在来挿し木品種クマスギを加えた解析では血縁関係 (親子, 兄弟) が検出された。天然林との特異な遺伝的関係も検出され, 限られた母樹からの苗木による創始者効果の可能性が示された。現在の遺伝的多様性・特性を維持するには, 挿し木や血縁関係にある幹の重複を避けて母樹を選定し, 苗木を生産することが有効である。また信仰的な理由で挿し木されたと考えられる個体もみられており, 戸隠神社の歴史を反映するこれらの遺伝子型の保存も重要である。