天然林におけるシカの影響を評価するには, 森林の種組成や構造の違い, 剥皮や枝葉の採食など影響の多様な形態を考慮する必要がある。また, 広域の調査には多くの関係者が簡便かつ客観的に評価できる手法が望ましい。そこで, シカの食痕や足跡等に関する簡易なチェックシートを用いた調査を実施した。チェックシートは林野庁北海道森林管理局の森林管理署職員によって記入され, このうち天然林を対象とした1,371件を解析に用いた。シカの食痕等に関する10項目の回答を用いて多重対応分析を行ったところ, 各地点のスコアはシカが多い, 少ない, わからないという三つの方向を含む平面上にプロットされた。第1主成分は狩猟者によるシカ目撃効率 (SPUE) と有意な相関があった。食痕の有無や不嗜好植物の量は「わからない」とする回答が多く, 著者らが同一林小班内で確認した結果と比較したところ, 食痕があるとする回答が少なかったことから, 森林管理署職員の回答には食痕の見落としの可能性が示唆された。第1主成分のスコアをもとに, クリギング法によって推定された北海道全体の森林における評価結果は, 従来の情報と比較して, 妥当なものと考えられた。