都市近郊の孤立林や放棄林ではしばしば偏向遷移が問題視されるが,遷移の方向は周辺の景観によって異なると考えられる。本研究では耕作地および照葉樹林(コジイ自然林およびウバメガシ二次林)に隣接する管理放棄された落葉広葉樹林(コナラ二次林)において,5年間の林分構造の変化および林縁効果を調べた。二次林では5年間で常緑樹の個体密度および胸高断面積合計が増加し,胸高直径の小さい落葉樹が枯死した。また,耕作地に面した林縁から林内に向かって,常緑樹のサイズ,個体密度および胸高断面積合計が大きくなり,落葉樹の枯死率が高くなった。進界木の多くは鳥散布型種であったが,半数以上が近接するコジイ自然林の構成種であり,定着パターンが林縁に集中していなかった。そして,緑化木や外来種の侵入はなかったことから,二次林は偏向遷移していないと考えられる。今後は林内から林縁に向かって常緑樹の拡大が進み,耐陰性の高い常緑広葉樹が低木層で増加し,近接する照葉樹林に類似した林分構造へ変化すると予想される。種子供給源となる成熟林が近隣に存在する景観内では,放棄された孤立林であっても偏向遷移が起きにくいと考えられる。