スギ,ヒノキなどの針葉樹から構成される人工林は,ニホンツキノワグマにとって広葉樹林と同様の食物供給源であり,人工林内のブナ科堅果や液果,草本等を食物として利用している。本研究では,ある人工林分における施業の有無,樹種,林齢,シカ密度とその林分に含まれるクマの食物資源量の関係を調べ,人工林のどのような要因がクマの食物資源量に関係しているかを検討した。調査は奥多摩湖周辺(東京都奥多摩町および山梨県丹波山村)で47林分を対象に行った。資源量はクマが食物として利用可能な堅果や液果を結実させる木本類の胸高断面積および草本類の被度として測定し,これらを目的変数,人工林の要因を説明変数として一般化線形モデルを用いて,資源量に影響する要因を評価した。モデル選択の結果から,人工林においては,(1)施業がないと堅果の資源量が増加し施業があると液果の資源量が増加する,(2)シカ密度が高いところでは草本類が多くシカ密度が低いところでは液果の資源量が多い,(3)林齢が高いと堅果の資源量が多いことが示唆された。クマの保全を考慮した実際の人工林の管理においては,施業の内容とシカの生息密度を考慮する必要がある。