秩父山地の山地帯天然林に配置した計6.875haの大面積プロットにおける胸高直径5cm以上(7,940本)の毎木データから,樹種個体群の空間分布特性およびその地形依存性について明らかにした。大面積プロットは樹種構成により四つの植生型に区分され,55の構成樹種は植生型ごとの胸高断面積合計から四つの種群に分けられた。それぞれの樹種の空間分布特性はCCA解析によると地形傾度に対応していた。一方,本調査区の主要樹種であるツガ,ブナ,イヌブナなどは安定した個体群維持を行っており,これら3種を主体とする各植生型は,長期間にわたり大きな撹乱がなかったこと,表層土の侵食と堆積が全域で起こっていること,乾湿傾度が地形条件によって変化していること等によって配列されたものであることが示唆された。さらにこれらの植生パターンの変化幅は標高に伴う地形傾度の程度により規定されていると考えられた。