高齢のスギ•ヒノキ人工林小流域(99年生)における流域面積の約20%の斜面下部の伐採が,養分動態に与える影響を明らかにするため,伐採の前後で渓流水量および土壌水分量の測定,土壌水,湧水および渓流水の水質分析を行った。伐採後,表層土壌(0~10cm)では土壌水分が減少し,下層(30~60cm)は湿潤状態にあった。また,渓流からの流出水量は年間約100mm増加した。表層土壌水(5cm)のNO3-, Ca2+, Mg2+およびK+濃度は伐採1,2年目の夏季に3~7倍に上昇したが,3年目には伐採前の水準に戻った。渓流水でも夏季にNO3-, Ca2+およびMg2+濃度が,伐採前同時期の約1.5倍に上昇し,分析を行ったすべてのイオンで濃度の季節変動が大きくなった。伐採後の土壌水中のNO3--N量は,30 cm以深における増加が顕著で,伐採3年目でも伐採前の4倍以上を維持していた。伐採後,NO3--N流出量は4.0~5.Okg ha-1 yr-1増加したが,土壌水中のNO3--Nの増加量と比較すると少ないことから,土壌中で生成した無機態窒素のすべてが渓流へ流出するわけではなく,土壌中での窒素の蓄積および消費が示唆された。