細菌食性の土壌線虫である Caenorhabditis elegans (線虫)が,ヒト病原体の代替宿主として認められつつある.本研究の目的は,食中毒細菌が線虫に病原性を示すか否か検討することにある.ペプトンを含まない寒天上に各種の病原細菌を塗りつけた後,若い成虫を移して摂取させた.24時間ごとに線虫の生死を確認し,生残率を経時的に調べた.供試した14種の病原体のうちセレウスと腸管侵入性大腸菌を除く12菌種(各種下痢原性大腸菌,黄色ブドウ球菌,腸炎ビブリオ,サルモネラ,リステリア,エロモナス,エルシニア)が,線虫の生残率を対照群に比べて有意に低下させた.既に報告されたペプトンを含む寒天上で実施された線虫の感染実験と同様に,線虫に病原性を示す菌は,ペプトンを含まない寒天上でも線虫に感染し,その体内で増殖していることが明らかとなった.しかしながら,ヒトに病原性を示さない大腸菌HS株や,マウスに対する病原性を失ったリステリアの変異株が線虫に病原性を示した.線虫は食中毒菌の病原性を検討するうえで有用であるが,線虫に対する病原性がヒトへの腸管病原性を必ずしも反映するわけではない.線虫を代替宿主として利用するに当たっては,病原菌の種類や解析する病原遺伝子を注意深く選定し実験することが求められる.