広島市域において, 1997年9月以降, サルモネラ属菌による散発的な食中毒事例の疫学的解析を行い, 食中毒の発生と起因菌株の動向把握を試みた.1998年末よりサルモネラO7群の S .Oranienburgの漸増傾向が認あられ, 同時期にサルモネラO4群の S .Chesterの増加もみられた.その発生は, 全国的な青森県産イカ乾製品を起因とした S .Oranienburgによるdiffuse outbreakの発生時期と一致していた. 今回, 本市での散発性食中毒とイカ菓子事例との関連性を究明するため, 生化学的性状, 血清型および薬剤感受性などの表現型別と分子疫学的解析手法であるRAPD法およびPFGE法による遺伝子型別を併用して検討した.RAPD法ではキット付属の6種類のプライマーの各パターンの組合せにより, 由来の異なる S .Oranienburgは4群に分類され, S .Chesterは3群に分類された.本市の散発性食中毒事例株およびイカ菓子関連株にこの方法を適用した結果, それらの多くは同一パターンを示し, PFGE法を含む他の疫学的解析の結果と総合すると, 本市の散発性食中毒事例が, S .Oranienburgのみならず S .Chesterも関与したdiffuse outbreak事例であったと考えられた.検討したRAPD法は S .Oranienburgおよび S .Chesterの迅速なスクリーニング法として実用的であった.