年間を通じ一定して製造することができない北海道産ホタテガイ白干し加工への対応は, 製造工程中に貝柱を冷凍し, 凍結貝柱の使用を可能にすることにあると考えた. そこで, 白干しの製造工程に冷凍工程を加え, 焙乾工程に過熱水蒸気を用い, 製品を調製した. 品質評価の指標として貝柱の呈味成分の一つであるAMPを用い, 解凍方法の違いがヌクレオチドの組成に与える影響について検討した. 冷凍処理を一番煮と水晒し後に実施し, 冷凍貯蔵後緩慢解凍した貝柱を用いて作製した白干しのヌクレオチド量は, 二番煮や焙乾後に冷凍処理したものに比べ少なく, HxRやHxが増加していた. 冷凍一番煮貝柱の緩慢解凍ではHxRやHxが多かったものの, その急速解凍では両者は少なく, 冷凍二番煮貝柱では緩慢解凍であってもHxRやHxが僅かであった. 開殻を目的とした一番煮の加熱工程はATPを分解し, AMPを産生することがわかった. 一番煮貝柱は生鮮冷凍貝柱に比べATPが少なくAMPが多く, 内在する酵素によりHxRやHxが増加しやすいことが推察された. 貝柱中のATP関連物質の分解酵素は一番煮程度の加熱では失活せず, 低温貯蔵であってもADP, AMPを分解し, HxRやHxを産生させた. AMP分解酵素は, 80℃, 5分程度の加熱により容易に失活し, これは品温が90℃を超える二番煮処理貝柱においてHxRやHxが少ない要因と考えられた. 以上のことから, AMPを減少させない白干しの製造として, 二番煮以降の工程で冷凍処理できることがわかった. また, それ以前の工程の場合は, 急速解凍を実施することでAMPが損なわれない白干しを製造できることがわかった.