3種類の市販の油脂(バター,ジグリセリド,トリグリセリド)と2種類の試薬としての油脂(トリオレイン,トリパルミチン)を用いてクッキー様菓子を作製し,これらの油脂添加の影響を,クッキー様菓子とクッキー様菓子から分離した澱粉の特性面から調べた. (1) クッキー様試料の断面は澱粉粒が油脂に覆われた構造であった.油脂の種類による違いは認められなかった. (2) DSCによる糊化特性では,分離澱粉は小麦澱粉に比べてエンタルピーがやや低くなったが,結晶領域での変化は小さかった.油脂の種類による違いは認められなかった. (3) ヨウ素澱粉反応において分離澱粉は小麦澱粉に比べて低い値を示した.また,GPCにおいて分離澱粉は小麦澱粉に比べて高分子画分が低分子側にシフトしたことから,分子レベルでの変化が見られた.この結果から,分離澱粉中のアミロペクチンが分解されていることがわかり,焼成により澱粉中のアミロペクチンの非結晶領域で分解が主として起きていることが示唆された.また油脂の種類により分解の程度が異なることが判明した. (4) RVAによる粘度特性において,分離澱粉は小麦澱粉に比べて粘度が顕著に低下したが,澱粉分子の分解度と粘度低下の度合いは一致しなかった.このことから,粘度低下は澱粉分子の分解以外に別の要因(油脂との包接など)が存在すると示唆された.