1.過熱水蒸気の特徴 最近,過熱水蒸気を調理や乾燥,焼成といった食品の加工や食材の殺菌などへ利用する方法が注目されている. 過熱水蒸気とは,飽和水蒸気をさらに加熱して得られる水蒸気ガスのことであり,大気圧では100℃よりも高い蒸気を指す.その特徴として,(1)被加熱物の水分を乾燥させる熱媒体としての利用が可能,(2)過熱水蒸気中では極低酸素雰囲気となるため,酸化の少ない加熱が可能,(3)初期凝縮による潜熱の伝達と水蒸気自体の熱容量により迅速な表面加熱が可能,等が挙げられる. 過熱水蒸気はボイラーで発生させた飽和水蒸気を2次加熱することにより得られるが,その方法にはオイル燃焼方式,ガス燃焼方式,電気加熱方式等がある. 食品加工への応用にあたっては上記の(2),(3)が特に着目されている.伊與田らは熱工学的観点から,食材を過熱水蒸気雰囲気に投入してからの過程を,(1)凝縮過程,(2)蒸発復元過程,(3)蒸発乾燥過程からなる「凝縮から蒸発への反転過程」と整理している1).加熱初期では試料表面に水蒸気の凝縮による水層が存在し,湿った状態で潜熱の形で熱が伝達され,これが食材などの短時間での表面殺菌に利用できる.さらに,その後の食材表面に形成された水層が蒸発する過程では,農産物の長期貯蔵に関連の深い自己酵素の失活などを効率的に行うことが可能である. 食品の加工や殺菌に利用する場合,これらの特性を理解し,目的に応じてうまく処理条件を調節する必要がある. 2.調理加工への応用 前述した過熱水蒸気の特徴を活かした新しい製造技術は,インスタント食品や茶葉の乾燥,水産加工品2)等,多くの分野での実用化が検討されている.また,食品の機能性や安全性に関連する高品質化が求められる中,低酸素状態での加熱処理が食品成分にどのような影響を与えるかについても検討が進められている. 最近,過熱水蒸気を組み込んだ一般家庭用電気調理器具が上市され,関心が高まっているが,その利点として,一般的なオーブンに比べ,加熱ムラやパサつきが少ない,焼成時間が短い,油脂の酸化が少ない等の他,脱油の効果も大きいことが特徴とされている.フライ食品や畜肉加工品等において効果的な脱油が認められているが,一方で工業規模での連続的な処理においては,脱油した油の装置内からの回収,排出の点で課題が指摘され3),また,機能性成分の保持効果,酵素活性への影響等,過熱水蒸気による調理加工特性はまだ十分に解明されていない部分も多い.今後さらに検討が進められることにより,これまでにない特徴を有する食品加工技術として実用化されていくことが期待される. 3.殺菌への応用 湿熱状態で迅速な加熱が可能な過熱水蒸気処理は,香りや色調,食感などを保持したい素材の殺菌には有効である.一部では,水蒸気密度を高くし高温で短時間殺菌を行うため加圧過熱水蒸気を用いた殺菌処理がシステム化され,香辛料をはじめ穀類や乾燥農産物等の殺菌に利用されている. 加圧下でなく常圧においても冷凍食材やサケ,スルメ等の水産乾製品4),その他において表面殺菌処理の検討がなされている.筆者等は漬物原料野菜やソバ抜き実を対象に常圧過熱水蒸気処理による殺菌効果を検討した結果,生菌数の少ない浅漬や,地域特産品として日持ちの良い生そばの製造に有効であることを認めている5). さらに最近,高温の微細水滴を含んだ過熱水蒸気による農産物の一次加工処理システム等も開発され6),ポテトサラダの製造等で実用化されている. 今後は,製造現場の状況にあった処理装置の開発が進み,食品分野での過熱水蒸気利用の一層の進展が期待される.