ナガイモ根茎の脂溶性成分に神経細胞保護作用が報告されているが,ナガイモの脂質成分はこれまで未詳であった.今回,著者らは北海道十勝産ナガイモの凍結乾燥物を用いて脂質成分の化学的組成を調べるとともに,不ケン化物のヒト結腸がん細胞に対する作用を検討した.ナガイモの脂質成分は微量(0.4%)であったが,アシルグリセロール類と遊離脂肪酸の他に,2種の中性ステロール脂質(アシルステロールと遊離ステロール),5種の糖脂質[モノグリコシルジアシルグリセロール,ジグリコシルジアシルグリセロール(DGDG),ステロール配糖体とそのアシル化物およびグルコシルセラミド]および4種のリン脂質[ホスファチジルエタノールアミン(PE),ホスファチジルコリン(PC),ホスファチジルイノシトール(PI)およびホスファチジン酸(PA)]の存在を認めた.しかし,様々な生理機能が報告されているジオスゲンニンは検出されなかった.ナガイモの主要な脂質クラスはPA,DGDG,PCおよびPEであった.抗酸化性を示す脂質成分として3種のトコフェロール類が検出され,その総量は約2 μg/100 gであった.構成脂肪酸としては少なくとも17種が同定され,その中でリノール酸,パルミチン酸およびα-リノレン酸が多く,その他に同レベルのオレイン酸とシス-バクセン酸も検出された.主要な脂質クラスの構成脂肪酸の不飽和化指数は,ジャガイモなどと同様に,グリセロ糖脂質で高く,逆にPIとアシルステロール配糖体では低値であった.主要な構成ステロールは,いずれのステロール脂質においてもシトステロールとカンペステロールであった.ナガイモ不ケン化物はヒト結腸がん細胞(Caco-2細胞)に対して濃度依存的に増殖抑制作用を示し,その主たる活性はシトステロールであった.また,不ケン化物の添加によってCaco-2細胞に核の凝集や断裂化が見られ,アポトーシスが誘導されることが示唆された.