試験室は,第三者機関が行う外部質査定(外部精度管理,external quality assessment, EQA)に参加することで,自身の出す分析値の信頼性を評価し,実証する客観的手段を得ることができる.外部質査定の方法の一つが,技能試験である.技能試験は,試験室間試験(試験所間比較)の一つであるが,対象となる分析種の試験室報告値と分析種の真の値の最良推定値との比較であり,明らかに他の試験室間試験,例えば「分析法の妥当性確認のための試験室間試験」や「認証標準物質の認証値設定のための試験室間試験」とは異なっている. コーデックス委員会では,食品の輸出入に係わる試験所の能力評価のガイドライン(CAC/GL27-1997, 修正2006)で,(1)ISO/IEC17025(試験所および校正機関の能力に関する一般要求事項)に適合していること,(2)適切な技能試験1)に参加していること,(3)妥当性が確認された方法を用いていること,(4)内部質管理を行っていることを要求している.また,ISO/IEC17025の試験所認定を行う機関の多くが,技能試験に参加して適切な分析値を報告していることを,審査の要求事項としている.JIS Q 0043-1(試験所間比較による技能試験,第1部 : 技能試験スキームの開発および運営,ISO Guide 43-1)には,技能試験の供給者についての規格の詳細が示され,技能試験スキームの種類,実施方法,評価方法などが記述されている.技能試験の種類として,いくつかのスキームが挙げられているが,化学分析の分野で最もよく用いられるのは,共同実験スキームである.均質性が担保された試料が参加者に同時に配付され,参加者は任意の方法で参加できるので,開発した分析法の性能の確認や使用している方法の点検をすることができる. 食品分野での技能試験は,多くの機関・組織が供給しているが,規模としては英国のThe Food and Environment Research Agency (Fera)の化学分析に関するFood Analysis Performance Assessment Scheme (FAPAS)が,最大のものと考えられる.年度毎に,新しいプログラムが示され,2010年度のプログラムでは,各種の食品試料について,栄養成分,残留動物用薬物,マイコトキシン類,金属汚染物質,残留農薬,アクリルアミド,メラミン等の試験項目が用意されているが,植物防疫,動物検疫等の法律により日本国内では利用できないラウンドもあるので,国内で利用できるラウンドは約190 (http://sid.gsi.co.jp/product/csl/fapas/program2010.pdf)である. 共同実験スキームで行われた技能試験の評価には, z スコアが用いられることが多い. z =( x−X )/ σp ここで, x は参加者の分析値, X は参加者に配付された試料に付与された値, σp はスキームの要求事項を満たすように選ばれた適切なばらつきの推定値または規準の一つである.技能試験供給者は,参加者から報告された分析値から計算される標準偏差を, σp とすることは避けなければならない.Feraでは, σp はHorwitzの修正式2)またはこれまでの試験室間共同試験の結果から求めている. | z |≤2であればその分析結果は「満足」,2<| z |<3であれば「疑わしい」,| z |≥3であれば「不満足」と判定される. z スコアが2を超すと,試験室の技能は疑わしいと判定されるが,直ちに分析法の見直しを行うか,次回の技能試験まで静観するかの対応は,試験室の目的に適合したものである必要がある. z スコアが3以上となる状況は,試験室が目的に適合した分析システムを持っていれば,ほとんどないと考えられ,技能試験の試料を分析したときに手違いが生じたと考えるよりも分析システム自体が偏った方向に動き始めていると考える方が良い.そうした場合に,内部質管理(内部精度管理)としては,どのように対処するかの手順を文書化しておくことが推奨される. なお,技能試験には,定期的に継続して参加することが重要である.