生スィートバジルを乾燥する際に引き起こされる香りの変化を,香気成分バランスやスィートバジルの組織構造とそのレオロジー特性について,比較解析を行う事で,生スィートバジルの香りを維持する為に必要とされる因子の探索を行った.スィートバジルの香気寄与成分として特定したシネオール,リナロール,オイゲノール,オクタナール,1-オクタノール,(E)-2-ヘキセナール,(Z)-3-ヘキセノールの7種類の香気成分は官能評価の特徴を説明する因子となると考えられる.その中でも,生スィートバジルの香りを特徴づける因子としては,微量成分バランスが大きな役割を果たし,ハーブ自体には (E)-2ヘキセナールや (Z)-3-ヘキセノールが存在するが,それがハーブティーに溶出されずオクタナールが高い比率で溶出されることが重要であった.そのような性質を持つ組織構造は,葉内部の細胞壁の形状が乾燥工程を経ても維持されており,その状態は貯蔵弾性率の測定でも比較説明が可能であることが明らかになった.これらの結果により,ハーブの組織構造とハーブティーとして溶出される香気成分バランスに密接な関係がある可能性が示唆された.但し,今回確認された (E)-2-ヘキセナールや (Z)-3-ヘキセノールはみどりの香りと称される物質の1つである.これらの物質は植物中のリノレン酸や配糖体を前駆体として酵素が関与し発現するものであり12),食品加工時に発生することも知られている14)~16) .今後は配糖体量の変化と酵素の関係についても検討を行い,組織構造変化の香りに対する影響をより明確にしてゆく必要があると考える.しかしながら,細胞壁の損傷が少ない状態であった真空乾燥スィートバジルが生特有の香りを保持していたという事実から,乾燥工程を経ることで喫食時に感じる香りの違いは,単純な香気成分の増減という因子だけではなく,組織構造変化という因子からも説明できる可能性が示唆された.乾燥ハーブの香りに対する品質評価を行う上で,乾燥ハーブからハーブティーに抽出されてゆく香気成分のバランス変化や内部組織構造変化の比較といった多面的なアプローチは,今後の有効な評価手法の1つとなることが期待できる.