本研究では,炭素・窒素安定同位体比分析によるしらす干しの原料原産地判別の可能性について検討した.国産しらす干しの炭素・窒素安定同位体比を用いてクラスター分析を行ったところ,国内9産地を九州,瀬戸内海東部から太平洋沿岸,瀬戸内海西部の3つのグループに分類することが出来た.各グループのδ13C・δ15N値を比較すると,δ13C値は九州地方(-16.9±0.3‰,平均±標準偏差)および瀬戸内海西部地方(-17.2±0.4‰)が瀬戸内海東部から太平洋沿岸地方(-18.9±0.6‰)より有意に高く,δ15N値は瀬戸内海西部地方(12.5±0.6‰)が九州地方(10.1±0.6‰)および瀬戸内海東部から太平洋沿岸地方(10.4±0.9‰)より有意に高かった.輸入しらす干しについては,δ13C値は中国産しらす干し(-16.5±0.3‰)が国産(-18.2±1.0‰),韓国産(-18.2±0.2‰)よりも有意に高い値を示し,δ15N値は中国産(8.0±0.3‰)が国産(10.6±1.3‰),韓国産(10.8±0.2‰)よりも有意に低い値を示したが,国産と韓国産の間には炭素・窒素安定同位体とも有意差は見られなかった.以上の結果から,養殖ではなく天然海域で漁獲された水産物の加工品であるしらす干しにおいても安定同位体比分析による原料原産地判別の可能性が示唆された.