酸性調味料における腐敗事故は,高酢酸耐性の Lactobacillus fructivorans によって引き起こされる.近年,消費者の健康志向や風味の要求性からドレッシングの低酸·低塩化が進み,それに伴い処方耐菌性が低下したため, L. fructivorans の制御技術の確立が強く求められている.まず, L. fructivorans の世代時間および拡散による物質の取り込み速度を評価したところ, L. fructivorans は他の乳酸菌と比較して増殖および取り込み速度が非常に遅い菌であることが明らかとなった.これより,酢酸の取り込み速度も遅いことが酢酸耐性の要因であると示唆された.このため,制御技術としては,膜を損傷し酢酸の取り込みを促進すると考えられるキトサンの利用が適していると考えられた.しかしながら,キトサン単独で膜の損傷を起こす濃度で添加すると風味に影響を与えた.そこで,キトサンによる菌体表面の疎水化および疎水化により菌体が油水界面に局在化することに着目し,油水界面に局在しやすく膜をさらに損傷するチアミンラウリル硫酸塩の併用を検討した.その結果,pH 4.1,塩分濃度3.5 %の低酸·低塩ドレッシングにおいて,0.04 %キトサンおよび0.04 %チアミンラウリル硫酸塩の併用により風味に影響を与えることなく L. fructivorans の制御が初めて可能となった.