養殖魚の脂の乗りに影響する脂質含量を非破壊で測定できれば,流通される鮮魚の品質保証に貢献できる.測定波長域や測定方式が異なる各種の携帯型機器が市販されているので,測定部の形状が異なる短波長域測定用の2機器および長波長域測定用の1機器を用いて,マダイの背肉およびウマヅラハギの肝臓に含まれる脂質の定量を試みた.マダイの背肉の脂質については,皮膚の上からのスペクトル測定で,各機器ともに粗選別に利用可能な測定精度が得られた.ウマヅラハギの肝臓直上の皮膚の上からスペクトルを測定した場合は,各機器ともに肝臓脂質の測定精度は低かった.短波長域の2機器については,ウマヅラハギの体表面から測定したスペクトルが肝臓の脂質をある程度反映していたので,透過スペクトルを用いるなど,測定法を検討すれば精度を向上できる可能性があると考えられた.ウマヅラハギの肝臓を魚体から取り出してポリエチレンフィルム越しにスペクトルを測定した場合は,各機器ともに脂質の多少を評価するために十分な測定精度が得られた.マダイの体表からの測定およびウマヅラハギ肝臓の直接測定の結果から,短波長域だけでなく,これまで知見が少なかった長波長域の携帯型近赤外分光計を用いても,養殖魚の脂質測定が可能であることが明らかになった.