本研究では,切断操作の違いによる切断時の荷重値の違いおよび食材へ与えるダメージの評価を行った.引張圧縮試験機に固定した包丁で試料を切断し,試料に働く荷重値を電磁式はかりで計測して仕事量を算出することで切れ味を数値化した.この時,各切断速度における仕事量に差は見られなかったため,切断に必要な仕事量は切断速度に依存しないとし,各切断速度における仕事量を平均することによって切れ味を決定した.切断荷重値測定においては,押し切り,突き切りの二つの方法でタマネギを切断した時の荷重値を測定した.切れ味の異なる2種類の包丁どちらにおいても突き切りの場合は切断時の荷重値は小さくなった.被切断面からの水分流出量についても,包丁の切れ味によらず突き切りをした場合は水分流出量が小さくなった.試料の被切断面の画像解析では各試料における3次元画像を習得し,そこから高低差の分布を示すヒストグラムを作成した.押し切りでは150~200 μmをピークに700 μmまでの範囲に分布が存在し,一方突き切りでは500~100 μmをピークに400 μm以上の高低差は観察されなかった.よって突き切りのほうが全体的に高低差は小さく,食材の被切断面へのダメージを最小限に抑えることができると考えられる.ピルビン酸生成量については,切れ味の良い包丁のほうが切れ味の悪い包丁よりもピルビン酸生成量が少なかった.また,切れ味の異なる包丁どちらにおいても押し切りより突き切りのほうがピルビン酸生成量は少なかった.このことから,食材の被切断面へのダメージが小さいほどピルビン酸生成量も少なくなり,切断エネルギーのより小さい突き切りを行うことで,切断によってタマネギ表面に生成される辛味成分量を少なくすることに有効であることが示された. 以上の結果から,切断操作によって切断時の荷重値および食材へ与えるダメージの影響は大きく変化し,特に切断時のエネルギーが小さいほど,被切断面における構造破壊が小さく,食材被切断面からの水分流出や細胞破壊によって生じる酵素反応等が回避されるということが示唆された.押し切りに比べ突き切りは,切断時に試料に及ぼされる荷重値がより少なく,食材に与えるダメージを抑える操作であることがわかった.