本研究では,さくらえび製品の産地判別手法としてDNA分析および炭素・窒素安定同位体比分析の有効性について検討を行うとともに,加工処理(干す・煮熟)および甲殻類など外骨格を有する生物の安定同位体比分析の前処理として実施される酸処理が,サクラエビの炭素・窒素安定同位体比に及ぼす影響について検討を行った. 産地判別手法としてのDNA分析の有効性については,生さくらえびのmtDNAの16SrRNA遺伝子の部分塩基配列を比較したところ,駿河湾産と台湾産に全く差が見られなかったことから,16SrRNAおよびCOI領域を対象としたDNA分析による駿河湾産と台湾産サクラエビの判別は困難であることが明らかとなった.一方,安定同位体比分析により,各ロットレベルでのさくらえび製品の産地判別の可能性が示唆された. 加工処理(干す・煮熟)がサクラエビの炭素・窒素安定同位体比に及ぼす影響については,干すという加工処理は炭素・窒素安定同位体比に大きな影響を及ぼさないが,煮熟という加工処理により窒素安定同位体比が低下する個体が存在する可能性が示唆された. 生さくらえびにおける酸処理の影響として, δ 13C値が有意に低く( p <0.001)なり, δ 15N値が有意に高くなる( p <0.05)傾向が確認された.