凍結乾燥食品の貯蔵中に生ずる脂肪または脂容性成分の酸化防止方法を検討する目的で,カロチノイドを被酸化試料として使用し実験を行なった。酸化防止剤を間接に使用した場合に予期した以上の酸化防止効果を示したので,間接添加条件を細部にわたり検討し,つぎのような結果を得た。 (1) 微細結晶状のカロチノイドは4℃以下の低温においては酸化はさほどすみやかではない。しかし室温以上の温度では急速に酸化される。 環境湿度はカロチノイドの酸化速度に関係があり,関係湿度60%以上では酸化をある程度抑制した。 (2) BHA, BHTを被酸化試料に直接添加した場合の酸化防止効果は約25~30mg%までの添加量に対し添加濃度別効果を見出すことができる。 間接添加の場合には約20mg%までの添加量に対し,添加濃度別効果が直線的にあらわれた。 直接添加と間接添加とでは明らかに後者の方法が酸化防止効果のすぐれていることが判然と認められた。この際BHAとBHTの酸化防止効果はいずれもBHTはBHAよりわずかにすぐれていることを示した。 (3) BHTを間接添加した場合の添加濃度の限界は約50mg%であった。 (4) 酸化防止剤を間接添加する場合の条件としては,酸化防止剤吸着濾紙片の面積はさほど酸化防止効果に差異がないが,被酸化物に対し広い面積に間接に接触することが有効である。またこの場合上部空隙および被酸化物間の空隙の量はほとんど影響がないので,被酸化物の容器への充填の粗密は余り考慮する必要のないことがわかった。 (5) 酸化防止剤の直接添加,間接添加方法による酸化防止効果の差異を再度比較した結果,本実験のようなカロチノイドを使用したモデル実験においては,明らかに間接添加方法が酸化防止にすぐれた効果を上げうることを確認した。 以上の結果はおもにモデル実験結果であるが,サケの凍結乾燥物に対する一実験例でもわかるごとく,この間接添加方法が実際の凍結乾燥食品に応用し得る可能性を示している。今後さらに検討し実際に活用し得るとすれば,前処理に煩雑な酸化防止剤添加処理を行なう必要ははぶけ,製品を容器へ充填する際に単に酸化防止剤の吸着物(紙,布,スポンジなど)を,ともに加えるのみの単純な操作で酸化防止の目的が達し得るので,直接添加による品質への影響,労力,時間などの制約を排除することができるなど,凍結乾燥食品の品質保持のための処理を合理化することが可能であると考えている。