ソフトクリーム用安定剤としての性能を検討する目的で,Na-CMC, Na-Alg, PGAの無機中性塩溶液に対する水和安定性を比較するため,それらの各種濃度無機塩溶液の濾紙毛管上昇距離を測定し,つぎの結果を得た。 (1) NaCl, NaNO3, Na2SO4およびNa2SiO3(PGAの場合を除く)のごとき1価のcationであるNa+の塩類溶液においては,各種安定剤ともそのanionの種類およびイオン価数に無関係に,少なくとも塩濃度1.8%くらいまでは大体水和性に変化がなかった。 (2) PGAはNa2SiO3水溶液中でやや水和性が減少した。 (3) CaCl2水溶液中ではNa-CMCは水和性がやや減少するが,PGAはきわめて安定であり,ソフトクリーム用安定剤として適しているように考えられる。Na-Algは濃度がある程度以上で,Ca濃度が小さいときはゼリー化をおこすが,この性質はソフトクリーム製品の保型性を増し,長期間保存の場合のクリーム容積の収縮,組織の粗状化防止などに好影響を与えると思う。Na-Algの濃度が小さいかあるいはCa濃度が大きいときは,Ca-Algはゲル化,凝結し,水和性を失なう。 (4) FeSO4水溶液中では,Na-CMCは水和性が減少し,Na-AlgおよびPGA (0.47%溶液)は塩類濃度約0.4% (Fe濃度約0.15%)以上で急激に水和性が減少する。 (5) FeCl3水溶液中では,Na-CMC, Na-Algは少量の塩類によっても容易に水和性を失なう。またPGAは0.47%溶液ではやや水和性を失ないやすかったが,0.12%溶液では少なくとも塩類濃度1.7% (Fe濃度約0.6%)までは変化がなかった。 (6) 本実験結果だけからソフトクリーム用安定剤としての適,不適を論ずると,まずNaClの影響は比較的薄いNa-CMC溶液の場合を除き,各安定剤ともあまり大きくないので,主として乳成分中のCaの影響を考えねばならない。すなわちNa-Algは比較的多く使用し,しかもCa量が少ないときはゼリー化し,もっとも適しているが,そうでない場合はゲル化し不適当で,むしろNa-CMCの方がよい。Na-CMCは一般に無機塩類によって少し水和性が減少するが,低廉で,その水溶液は腐敗しがたく,熱にも比較的強く,低温度における粘度増加も少なくて使用しやすいなどの利点をもつている。PGAはもっとも安定で一番適しているが価格の点に問題があり,また硅酸分の多い水の使用はさけねばならない。なおNa-CMC, Na-Algは鉄分の影響にも注意すべきである。要するに各安定剤は一長一短があるので,これらを適当に配合して使用することが望ましい。