一辺が約1.5mmの立方体に切断した子葉組織試料を十分量の水の存在下で95℃まで加熱したところ,デンプン粒の偏光十字はほぼ完全に消失したが,組織は軟化しなかった(細胞分離は認められなかった).この結果をふまえて,子葉組織のDSCを行い,組織内デンプンの糊化を検討した.子葉組織のDSC曲線は,約74℃をピークとし,約84℃をショルダーとする高温部に大きくテーリングした吸熱曲線であった.この曲線の形および特性値を単離デンプン,子葉細胞,粉砕小豆の場合と比較した.その結果,組織内デンプンの糊化は,基本的には細胞内デンプンの糊化と同様に,低温部では十分量の水の存在下での糊化であり,高温部では水の供給が制限された状態でのデンプンの糊化(結晶の融解)であった.また,粋砕小豆のTo,Tp,Tcが単離デンプンに比べて約2℃高温であったことや単離デンプンおよび細胞内デンプンの吸熱曲線が小豆から抽出した水溶性成分の添加によってわずかに(約1-4℃)高温部ヘシフトしたことから,組織内デンプンの糊化抑制には,細胞壁や組織構造の強靱さ以外に水溶性成分も関与するのではないかと推察した.