食品製造装置表面のファウリング機構の解明の一端として,高メトキシル(HM)および低メトキシル(LM)ペクチンのステンレス鋼粒子表面への吸着特性について検討した.溶液のpHが上昇すると共に,HM, LMペクチンの負の電荷等量は増加し,分子の膨脹も付随して起こった.HM, LMペクチンは,正または負に帯電したステンレス鋼粒子表面へ自発的に吸着した(pH 3~6).HM, LMペクチンの吸着等温線は共にLangmuir型で近似的に表された.HM, LMペクチンの飽和吸着量は,溶液のpHの減少と共に増加する傾向にあり,ペクチン分子のカルボキシル基の解離度の減少と相関していた.非解離型HM, LMペクチンの吸着分子は, NaOH (0.25N)によるアルカリ洗浄によって容易に脱離した.一方,正帯電のステンレス鋼表面に吸着しているアニオン性のHM・LMペクチン分子は,アルカリ洗浄に対してより高い抵抗性を示し,高い残留量を示した.ペクチン(HM, LM)とステンレス鋼の間に静電的引力が働くpHにおいて,電解質(1, 2価)によりペクチン分子の電荷を遮蔽あるいは分子間架橋すると,ペクチンの吸着量は増加すると共に,アルカリ洗浄による吸着分子の脱離性も向上した.以上の結果より,水-ステンレス鋼界面でのペクチンの吸・脱着挙動は,ペクチン分子とステンレス鋼表面の荷電状態によって決定されると考えられた.