食パンの焼成プロセスにおける熱及び物質移動特性を解明するために,同一方法で作成した生地を異なる温度条件下で焼成し,焼成中における生地内温度と水分分布及び質量変化を経時的に計測した.また,焼成されたパンについて空隙率分布とクラスト厚さを測定した.以下にその結果について要約する. (1) 焼成温度が高くなるにつれて生地の温度上昇速度は速くなる傾向を示した.特に,この傾向はクラスト層において顕著に示された.また,クラムの温度は焼成温度条件に関係なく約100℃の平衡温度に到達し,その後クラム内はこの温度で均一に保たれた. (2) 焼成時間は焼成温度に依存し,焼減率と比例関係にある. (3) 焼成プロセスを乾燥現象とみなすと,焼成はいずれの焼成温度条件下でも予熱期間から始まり,恒率乾燥期間の途中で終結する.恒率乾燥期間はクラストを介して行われる熱と水蒸気移動のフラットクスの比が一定となる期間であり,その速度は焼成温度が高くなるにつれて速くなる. (4) クラスト層の含水率は焼減率の増加に伴って減少するが,クラム層では初期含水率に維持される.また,水分の蒸発面がクラスト層とクラム層の境界に存在する. (5) クラスト厚さは焼減率と線形関係にあり,焼成温度が高くなるほど厚くなる. (6) 空隙率分布は焼成温度によらずオーブンスプリング後に固定化され,その分布はクラスト層でも維持される.