小麦澱粉20.6%,糖14.4%および蒸留水65.0%からなるゲルを調製し,2℃で貯蔵した際のゲルの硬化および水分子の運動性に対する糖の添加効果を検討し,次の結果を得た. 1) 糖添加ゲルの硬化過程は,一般に対照ゲル(糖無添加ゲル)と同様に,クリープコンプライアンスが(1)貯蔵数時間まで指数的に減少する過程(領域1),(2)その後,数時間だけ一定あるいは緩慢に増加または減少する過程(領域II),(3)初期値の延長と見なせる指数関数的に減少する過程(領域III),(4)最終的にさらに緩慢に減少する過程(領域IV)とに分けられた. 2) 領域Iにおける初期クリープコンプライアンスは,D-リボース添加ゲルを除いて大差なく対照ゲルよりも小さかった.D-リボース添加ゲルは,他の糖添加ゲルの約60%の応力でほぼ同程度のひずみを示し,著しく柔らかかった. 3) D-リボース,マルトース,トレハロース,スクロース,マルトースとマルトトリオース,あるいはマルトトリオースを主成分とするマルトオリゴ糖は領域Iと領域IIIにおける硬化速度を有意に低下させた. 4) D-フルクトース,D-ガラクトース,メリビオースは,領域Iと領域皿における硬化速度を対照ゲルよりもむしろ増加させた. 5) 二糖およびオリゴ糖では,構成単糖が同一でもグルコシド結合様式により澱粉ゲルの硬化抑制能が異なった. 6) ゲル中の水分子の運動性を17O-NMR法によって測定したところ,2℃での貯蔵の経時に伴うT2の変化率は,マルトース添加ゲル≦トレハロース添加ゲル<スクロース添加ゲル<対照ゲル<メリビオース添加ゲルの順であった. 7) 硬化速度定数は調製直後のゲル中の水分子が束縛されると共に,ゲルの貯蔵に伴い水分子がさらに束縛されるのが遅い試料ほど小さかった.