本研究では,ニンジンの師部,形成層部,ならびに木部の各組織から切断方向の異なる切片を調製し,生理特性やカルス形成速度の相違などを調べることによりカットニンジンの貯蔵性に差異の生じる理由を明らかにしようとした. 切断方向にかかわらず,師部と形成層部の切片のCO2排出量とC2H4生成量は切断後10数時間まで増加し,その後は減少した.木部切片のCO2排出量とC2H4生成量は切断直後から実験終了の保持48時間まで増加を示した.形成層部切片のCO2排出量とC2H4生成量の一時的な増加ならびに木部切片が示したCO2排出量とC2H4生成量の保持に伴う経時的な増加は,いずれも縦切り切片の方が輪切り切片より多かった. 木部切片における生菌数の増加は師部切片より速く,組織が異なっても縦切り切片における生菌数の増加は輪切り切片より速かった. カルス形成量は形成層部切片で最も多く,師部切片がそれに続き,木部切片におけるカルス形成量が最も少なかった.組織が異なっても輪切り切片のカルス形成量は縦切り切片より多かった. 木部から調製した切片は,師部切片より生理活性が高く,微生物の繁殖が速く,カルス形成量が少なかった.また同じ組織から切片を調製するときには,維管束に直角に調製した切片の方が平行に調製した切片よりも生理活性が低く,微生物の繁殖が遅く,カルス形成量が多かった.このような組織間ならびに切断方向による諸特性の相違がカットーンジンの貯蔵性に差異を生じさせるものと思われた.