タンパク質練生地をマイクロ波加熱すると,水分制限下にもかかわらず水分蒸発が速く,熱伝導加熱と異なる特有の物性変化がみられるところから,水分子の挙動とその派生効果に注目して調べた.なおこの際,低含水領域における水和量の報告が少ないので,各種練生地について未加熱時の“結合水量”測定を行なった. (1) 17種類の市販タンパク質についてパルスNMR測定を行ない,一定の仮定のもとに換算した結果,“結合水量”は0.038~0.276g/g乾物となり,少ないのはゼラチン,リゾチーム,ポリペプトン,カゼイン,多いのは大豆グロブリン,ヘモグロビンであった.なお,低含水領域は“結合水”の占める割合が高くなることがわかった. (2) 練生地をマイクロ波加熱すると,卵アルブミン,乾燥全卵は激しく膨化発泡し,カゼイン,グルテン,大豆グロブリンは粘弾性が強い凝固物となり,またゼラチンは溶けたように軟らかくなった. (3) 卵アルブミン,カゼイン,グルテン,大豆グロブリン,ゼラチンとも,マイクロ波加熱後パルスNMRによる“結合水量”が増加し,熱伝導加熱法より多くなった.ただし,加熱法による差がみられたのは一部の水分域のみであった. (4) 水分蒸発速度,“結合水”の変動量,膨化による伸張度の間には相関性があり,マイクロ波加熱では水の動態変化が誘因となって一連の非伝熱的な変化が進行していることが示唆された. (5) マイクロ波加熱試料は脱着後の収着水分量,単分子吸着水量が多くなった. (6) マイクロ波加熱法では水分活性が急速に低下した. 以上より,低水分域における水の状態変化が,マイクロ波加熱による一連の非伝熱的な物性変化の重要な誘因であろうと推察した.