マルチプレックスPCR法を用いた食肉製品用原料肉種の鑑別法を試験するとともに,食肉製品の加工条件である塩せきや加熱が鑑別感度にどのような影響を及ぼすか検討した.供試材料は食肉製品の原料肉として利用度合の高い6肉種(豚肉,山羊肉,鶏肉,牛肉,羊肉及び馬肉)とした.PCR増幅に用いた動物種共通のプライマー,動物種固有のプライマーはミトコンドリアDNAのチトクロムb遺伝子の塩基配列を比較して設計した.6肉種のPCR産物の長さは,山羊肉は157bp,鶏肉は227bp,牛肉は274bp,羊肉は331bp,豚肉は398bp,馬肉は439bpであった.豚肉を主要食肉として,他の5肉種の混合比を減少させた試料を作製し,それぞれの肉種の鑑別可能な配合割合を調べた.その結果,山羊肉,鶏肉及び牛肉は豚肉95gに対して1gの配合で,羊肉は豚肉90gに対して2gの配合で,馬肉は豚肉85gに対して3gの配合で鑑別が可能だった.同様に羊肉を主要食肉とした場合,山羊肉,鶏肉及び牛肉は羊肉95gに対して1gの配合で,馬肉を主要食肉とした場合には山羊肉,鶏肉及び牛肉は馬肉95gに対して1gの配合で鑑別可能であった.羊肉と馬肉を主要食肉としたとき,豚肉のフラグメントは検出されなかった.したがって,豚肉,羊肉及び馬肉の同時鑑別は混合比によっては困難であることが明らかとなった.豚肉を主要食肉とした混合肉を加熱温度65℃,70℃及び75℃でそれぞれ30分間処理しても,生肉の場合と同じPCR産物が得られ,加熱の影響は受けなかった.食肉製品の塩せき条件を考慮して,塩せき日数と食塩,亜硝酸ナトリウム及びポリリン酸ナトリウムの添加濃度を変化させて鑑別限界に及ぼす影響を検討したところ,山羊肉,鶏肉,牛肉及び馬肉は塩せきしない生肉及び加熱肉と同様の結果を示した.2%食塩,150ppm亜硝酸ナトリウム,0.3%ポリリン酸ナトリウムを添加して14日間4℃で塩せきし,75℃-30分間加熱して肉種鑑別に及ぼす影響を検討したところ,塩せき肉と同じPCR産物が得られたので,塩せき処理と加熱処理を併用してもそれらは肉種の鑑別限界には何ら影響を及ぼさないことが明らかになった.