納豆臭の成分である3-メチル酪酸がロイシンの代謝であることに注目し,エラスターゼ生産菌KFP 419のロイシン要求性の変異株を得て,香りの少ない納豆の開発を目指し研究を行って以下の結果を得た. (1) 紫外線照射によりロイシン要求性株を2株得ることができた. (2) その両変異株で納豆製造を行ったところ,今まで使用してきたプログラムAでは糸引納豆は製造することが出来なかった.しかし,製造条件を39-47℃の間で1℃ないし2℃ごと昇温し検討したところ,43℃のプログラムで両変異株で糸引納豆が製造できた.これはそれぞれの生育最適温度である,親株の40-41℃と両変異株の43℃と一致した. (3) KFP 419と両変異株で作製した納豆の間にはPSP容器とレスピラミカップのClosedタイプを用いた場合では,菌の被りと糸引きに有意差が見られKFP 419の評価が高かった.レスプラミカップOpenタイプでは菌の被りと糸引きと総合評価に有意差が見られた.さらにOpenタイプではKFP 419とNo. 43の間に豆の割れで,KFP 419とNo. 35の間に味で有意差が見られKFP 419の評価が高かった. (4) この両変異株で作製した納豆は親株の納豆より香りが少なかった.そこで揮発性成分等の品質について検討したが,3-メチル酪酸のピークが小さく痕跡程度であったため定量的に比較できなかった.しかし,両変異株で製造した納豆の香りは,他の成分との量比的な関係によって生成されるものであると示唆された. (5) 両変異株を用いて43℃(変異株の最適生育温度)で作製した納豆中のエラスターゼ活性は親株と同程度であった.親株はプログラムAでは43℃の1.5倍のエラスターゼ活性があった.