ヤマイモ粘質物の粘性の相違に関わる要因を解明するため,ツクネイモ,イチョウイモおよびナガイモを用い,粘質物を構成する粘性糖タンパク質の性状およびこれを形成するポリペプチドのN末端アミノ酸配列分析および限定酵素分解によるペプチドマッピングを行った. (1) 粘質物は糖タンパク質が83~96%を占め,粘度はツクネイモとイチョウイモは同様であったが,ナガイモではこれらに比べやや小さかった. (2) 粘性糖タンパク質は2-ME非存在下でのSDS-PAGEにて56, 32および28kDaのポリペプチドに分離され,N末端アミノ酸配列分析の結果,32および28kDa糖タンパク質のN末端アミノ酸配列は全く同じ配列を示した.また,ツクネイモおよびイチョウイモの56kDa糖タンパク質のN末端アミノ酸配列は同じ配列を示したが,ナガイモのそれは異なるN末端配列を示した. (3) World Wide Webネットワークを介したデータベース検索の結果,これらの配列から得られた共通配列がヤマイモの貯蔵タンパク質のひとつであるdioscorinの配列と類似していた. (4) 2-ME存在下でのSDS-PAGEて,糖タンパク質は分子量32kDaのひとつのペプチドバンドを示した.N末端アミノ酸配列分析の結果,32kDaのペプチドは主要な32kDa (A)とマイナーなペプチドの32kDa (B)の2種類のポリペプチドの混合物として同定された.非還元下でのSDS-PAGEによって得られた56kDa糖タンパク質は,2つの32kDa (B)がジスルフィド結合によって連結されたもの,32kDa糖タンパク質はジスルフィド結合を一切持たない32kDa (A)の単量体,そして28kDa糖タンパク質はその見かけ上の分子量が内部ジスルフィド結合のために小さくなった32kDa (A)の単量体であった. (5) ツクネイモ,イチョウイモおよびナガイモから得られた32kDa (A)ペプチドの限定分解によるペプチトマツピング解析およびアミノ酸組成分析の結果,それらの一次構造には若干の違いがあることが示された.