MLF終了後の熟成初期における赤ワイン中のRT(トランスとシス異性体)量の変化および長期熟成ワイン中のRT含量を調査した. (1) ワイン中のRT量は,MLF終了8ケ月後まで継続し増加し,MLF終了10ヶ月後では,RT量は一部のワインで減少しはじめていた.このことから,MLF終了以後も数ケ月間までは,パイシードの加水分解が継続していることが明らかになった. (2) 収穫年の異なる長期熟成(3~13年)ワイン中の総RT量は1.80~3.47mg/lで,この間ではトランスーRTは比較的安定して残存していることが判明した.また,同時に0.17~1.30mg/lのパイシードも検出された. (3)ブドウ生育期の気象条件と長期熟成ワイン中に安定的に残存していたトランス-RT量との相関を検討したところ,6月から9月までの月平均温度の合計値との間で負の相関(r=-0.759, p<0.05)が見られ,温度が高い条件下で収穫されたブドウを用いたワインではRT量は少なくなる傾向が認められた.