B.subtilis 胞子および B.pumilus 胞子の不活性化と損傷に及ぼす赤外線照射の影響について実験的研究を行った.滅菌蒸留水に懸濁した耐熱性の異なるこれらの胞子に対し,加熱履歴を同等とした温浴による殺菌処理と比較検討した後,原料穀物の状態を想定し,胞子懸濁液を風乾したものに赤外線を直接照射したときの細菌胞子の生存率および全生存菌数に対する損傷菌の存在率(損傷率)について調査した.さらに,高温空気の対流による加熱殺菌処理を行い,赤外線を直接照射した場合と比較検討した結果,以下の知見を得た. (1) 滅菌蒸留水に懸濁した細菌胞子に対するIR処理は,温浴によるHC処理よりも高い殺菌効果が得られた. (2) 懸濁状態では,99%の胞子の死滅に B.subtilis 胞子では約8分, B.pumilus 胞子では約12分のIR処理が必要であり,赤外線照射の場合,両胞子間で死滅時間と差があることが明らかとなった. (3) IR処理は,懸濁状態の B.subtilis 胞子と B.pumilus 胞子に対し,懸濁液全体の温度が同じでも,4分以内で菌体に損傷を与え,HC処理に比べて効果的であることが明らかとなった. (4) 乾燥した胞子懸濁液への赤外線の直接照射は,懸濁状態での照射や200°C一定のオーブンによる対流加熱処理よりも有効に細菌胞子を不活性化することが可能であった.また,胞子の耐熱性の高低にかかわらず,ほぼ同程度の時間(1.0kW:1分,0.5kW:2分)で90%の胞子を死滅することができた. (5) 直接照射では B.pumilus 胞子では,1.0kWで0.2分,0.5kWで0.5分後に50%の胞子が損傷し,照射時間に伴い損傷率は上昇したのに対し, B.subtilis 胞子の損傷率は1.0および0.5kWでそれぞれ40および70%以下の値を推移したことから,乾燥状態では, B.pumilus 胞子の方が B.subtilis 胞子よりもIR加熱による損傷を受けやすいものと思われる.