1.大豆の遊離糖(遊離型全糖・ショ糖・スタキオース・ラフィノース)・タンパク質・脂質含量および百粒重におよぼす影響を,品種の生育特性(早晩性),栽培地の品種,育成品種・系統と母本・父本との関連について検討した.試料は,北海道立中央農業試験場(以下,道立中央農試と略称)・北海道立十勝農業試験場(道立十勝農試)・東北農業試験場刈和野試験地(東北刈和野)・農業研究センター・長野県中信農業試験場(長野中信農試)・九州農業試験場(九州農試)・その他において,1992年に標準栽培条件により栽培し,得られた大豆95品種・系統,計104試料である.遊離糖の分析用には104試料を,タンパク質・脂質・百粒重用には74試料を用いた.なお,結果の解析に当たり,重複試料は平均値を使用した. 2.全試料の,遊離型全糖・ショ糖・スタキオース・ラフィノース・タンパク質・脂質含量および百粒重の,範囲・平均値・変動係数を示した. 3.全試料を早晩性品種群に分け,成分含量等の範囲・平均値・変動係数を示すとともに,平均値の群間有意差を一元配置の分散分析により検討した.その結果,遊離型全糖・ショ糖では晩生群が最も高含量を,次いで中生群が高く,早生群は低含量を,脂質では,早生群が最も高含量を,次いで中生群が高く,晩生群は低含量を示し,共に有意差が認められた.しかしながら,その他の成分には大差がみられず,また,百粒重の平均値は晩生群が大きく,次いで中生群が,早生群は小さい値を示したが,群内の変動が大きく,群間の有意差とはならなかった.遊離型全糖・ショ糖含量と脂質含量間には高い負相関が,百粒重間には正相関がそれぞれ認められた. 4.早晩性各群における成分含量等の栽培場所別品種の特徴は,早生群では,道立十勝農試は東北刈和野に比べて遊離型全糖・ショ糖含量が高く,脂質含量が低い.中生群では,道立中央農試・道立十勝農試が東北刈和野・長野中信農試に比べて脂質含量が低く,場所間に有意差が認められた.また,晩生群では,九州農試は遊離型全糖・ショ糖含量が低く,脂質含量が高く,ショ糖含量を除き,場所間に有意差が認められた.これらのことから,北海道大豆が美味である理由は,中生品種を主体に晩生品種と共に構成されており,さらに脂質含量が低いことと関連して,高遊離型全糖・ショ糖含量の状態をもたらしていることによる.なお,中生・晩生群において道立中央農試の百粒重の平均値は著しく大きく,他の栽培地間に有意差が認められた. 5.育成品種・系統と母本・父本との関係では,遊離型全糖・ショ糖・スタキオースでは,母本・父本の1代前および2代前のとの間にいずれも相関は認められず,ラフィノースのみが,母本2代前との間に正相関が認められた.タンパク質では母本1代前との間に正相関が,脂質では母本1,2代前,父本1代前との間に,それぞれ正相関が認められた.また,百粒重では母本・父本共に1,2代前との間に正相関が認められた. 6.育成品種・系統のショ糖含量におよぼす,1・2代前の母本・父本の早晩性の影響を調べた.育成品種・系統のショ糖含量は,早生は低含量に,中生は高∼低含量に,晩生では高含量に多く分布していた.しかしながら,これらへの1・2代前の母本・父本の早晩性の影響は,明確には認められなかった. 7.育成品種・系統(27品種・1系統)のショ糖含量への1代前の母本と父本のショ糖含量相互の影響では,育成品種・系統のショ糖含量は,1代前の母本・父本の相互のショ糖含量と関係の無いことが明らかとなった.